今でも忘れられない、中学生の時の「蛇口事件」

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 私が通っていた中学は、地元でも有名な柄の悪い学校だった。まだ「ヤンキー」ではなく「不良」の時代である。制服の「スカートは長く」、「ズボンは太く」、の時代である。その頃の不良たちは尾崎豊の曲を聴き、教祖と崇め、夜の校舎窓ガラス壊して回っていた。休み時間になるとあちこちで防災ベルが鳴り、授業中には不登校の不良たちがバイクのエンジンを大音量で鳴らして校庭で走り回り、放課後になれば近くの中学の不良たちと喧嘩に明け暮れ、パトカーに追われる、そんな毎日だった。
 私は、と言えば、髪を茶色くして先生に注意されていたけれど、行いはいたって真面目だったと思う。不良たちが溜まっているのを遠巻きに眺め、あんなふうにはなりなくないと思いつつも、かっこいい先輩は必ず不良グループにいたので、羨望もあった。
 今でも忘れられない「事件」がある。それは朝登校したときに発覚し、大騒ぎとなった。何と学校の水道の蛇口が全て、頭だけ取り外されていたのだ。もちろんそのままでは水道は使えない。先生たちが総出で蛇口の頭を探したところ、それらは校庭の走り幅跳び用の砂場に袋にまとめて入れられて埋められていたのだった。その日緊急で全校集会が開かれ、校長が説教を始めた。多分あの人たちだろう…と誰もが思っていたけれど、もちろんそんなことを軽はずみに言えば、シメられるのはわかっているので誰も言わない。それよりも私がショックだったのは、水道の頭を外すにはペンチとかの工具を使わないといけない、意外と地味な作業であるにも関わらず、律儀に学校の蛇口全てを取り除いていたということだ。夜の校舎窓ガラス壊して回ったならばまだ恰好がつくものを、夜の校舎蛇口の頭外して回ったではただの手先の器用自慢にしかならないじゃないの…。どうかそれをしたのが、憧れの先輩ではありませんように…と願ったことを、今でも忘れることができない。